【書評】『スウェーデンはなぜ強いのか』

しばからく英語の投稿が続きましたが、本日はスウェーデンに関してです。

イギリスに生活している間、幸いなことに、仕事やプライベートでヨーロッパ各国を訪れる機会をたくさん持つことができました。日本に居た時は「ヨーロッパ」というと、どの国も似たような風景や気質をイメージしていたのですが、それは大間違い。国どころか、街や地方ごとに全く異なる特色があり、彼らの文化の豊潤さに驚かされたものです。

その中で、特に私が気に入ったのは北欧。建築物やインテリアの洗練されたデザイン、とにかくストレスフリー(に見える)生活、贅を尽くさずとも、これだけ豊かな生活を送れる彼らの文化に大きく感銘を受けました。

それもあって、帰国後、北欧言語のひとつであるスウェーデン語の勉強を始めました。北欧の人はとにかく英語がうまいので、コミュニケーション上で現地語を使う必要はゼロに近いのですが、彼らの文化や考え方を理解するうえでの助けとなることを期待してのことです。

スウェーデン語を学習してみたときの感触やメモに関しては別途、投稿していこうと思いますが、本日はスウェーデン社会の理解に役立ちそうな本の紹介です。

初版は2010年ということで少し古いですが、読んでいる中でとくに面白いな、と思った要素をいくつかピックアップしてみたいと思います。

森林の多さ

1995年時点の統計によると、スウェーデンの国土の73.5パーセントが森林で、スウェーデンは国土に占める森林面積の割合の大きい国である。(・・・)先進諸国の中では、フィンランド、スウェーデン、日本(68.9パーセント)が、国土に占める森林面積の割合の大きさのトップ3だ。

北欧の人と話していると、日本と北欧の美意識は似ているよね、と言われることが結構あるのですが、その背景のひとつには、この森林の近さというものがあると思いました。必然的に、木材とのふれあいというのも多くなるでしょうし、その近似性が、日本において北欧デザインがウケる理由のひとつなのかなと。

スウェーデンではありませんが、フィンランドのブランド(マリメッコ、アラビアなどなど)って日本で特異な人気を保っていて、フィンランドのアラビアのワークショップなどいくと、フィンランド語、英語に並んで日本語があるくらいです。

また森林以外も、彼らの住宅って、割と日本の団地みたいなものも多くて、日本のインテリア文化の向上に、北欧インテリアってかなり重要なロールモデルになるんじゃないかなと考えています。

政治家は兼業?

興味深いのは、スウェーデンの国会議員の多くは、議員活動を行うとともに、もともとの本業を続けている点だ。たとえば、医者が国会議員になれば、週の半分は地元に戻って医者の仕事をつづけているのだ。これは、政治家が実社会から遊離せず、政治屋になることを防ぐ効果をもつのである。国会議員は職業ではなく、一種の社会奉仕であるとの認識が定着している。

日本では「議員さん」というと、政治活動という名の選挙対策ばかりにン熱中してしまう人などもいるなかで、これって画期的な制度設計だと思いました。生活の多くの部分で、社会の中で生きている議員であれば、政治ムラだけで通用するような意思決定をしていると、そこそこ人生ツラくなってくるでしょうし、人間が変な方向に向かうのを止める仕組みづくりとして、とっても良くできているなと。

ちなみに、これはスウェーデンだけの話ではなく、スイスなどでも状況は同じようです。

スイスの国会議員は一般的に、労働時間の約6割を政治に、残り4割を各自の職業に費やす。そして、「職業政治家」というレッテルを貼られることを嫌う。それは、常に「現実の世界」とのつながりを保ちたいからだ。

https://www.swissinfo.ch/jpn/%E5%89%AF%E6%A5%AD%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%AE%E6%94%BF%E6%B2%BB_%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%81%AE%E6%94%BF%E6%B2%BB%E5%AE%B6–%E6%88%91%E3%80%85%E3%82%92%E8%81%B7%E6%A5%AD%E6%94%BF%E6%B2%BB%E5%AE%B6%E3%81%A8%E5%91%BC%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%A7–/41076886

スウェーデンの年金制度改革

この本で一番分量を割いて説明されていたのがスウェーデンの年金制度改革です。スウェーデンもかつては日本と同じ賦課方式を採用しており、少子高齢化の現実の中で維持が難しくなっていたそうですが、今はみなし確定供出方式(NDC:Notional Defined Contribution)という方式に変更することで、今の社会でも制度の崩壊が極めて起こりにくい形にアップデートできているようです。

旧制度課題新制度さらなる工夫
1基礎年金(全員一律)+所得比例の2階建て方式少子高齢化時代に、一律の年金支払いは維持が困難全員一律の基礎年金を廃止、すべて所得比例に所得総額で計算するので、15年ルールの不公平は解消
215年ルール:年金の額を、最も稼いでいた15年をベースに計算一時的に収入が高かった人に偏って年金が課される
330年ルール:30年年金を納めれば、年金が保証される30年勤続し、年金を確保した後の労働意欲が失われる現役負担+基金運用益を超えた年金は払わない年金受給年を遅らせると額があがるので、30年勤務後の労働意欲も減らない
4運用:受け取る年金を、現役世代の負担+年金基金の運用益でまかなう物価上昇などで年金支払い額が増えた場合、維持できない

何がすごいって、少子高齢化社会においては、年金をもらう人とはらう人のバランスは必ず悪くなっていくという現実を直視して、絶対に維持できない部分にメスを入れた新制度を作り上げたことですね。

老後2,000万円問題のような話もあり、国民が誰も制度が維持できると信じていないような状態を放置するのであれば、スウェーデンのように割り切った年金制度を導入すれば、国に対する信用も高まるのではないでしょうか。もちろん、選挙を考えるとなかなか踏み切れない改革ではありますが、野党がバラバラな状態になっている今こそ、将来も国が維持できるような制度に生まれ変わらせるのが大事だと思います。

本書ではほかにも、スウェーデン企業の根底に通底するポリシーなど、色々な角度からスウェーデン社会を分析しています。正直、スウェーデン人の心性に関する著者の論評は、いくぶん主観も入っていて、うのみにできない部分もありますが、本書で紹介してくれている「社会全体が自然とうまくいくようになる制度設計」は非常に勉強になる実例が多いので、一読の価値がある本かと思います。

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